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'04.01.28 メルマガ発行 '03.02.06 web版 発行 |
No.012 '04.01.28 ヴィルトゥオーソ・スウィネンの遺産/[リン・ラーセン] いよいよ来日
◆◆ オルガン・ヴィルトゥオーソ、スウィネン(1885-1972) オルガン演奏史上、ずば抜けたテクニックを持つ演奏家、つまりヴィルトゥオーソと呼ばれるようなビアニストに匹敵するオルガニストはあまり多いとは思われない。そのような中で、ベルギーに生まれ、イギリスを経てアメリカに渡って活躍したファーミン・スウィネン(1885-1972)について一言触れておきたい。より詳しく知りたい方は、以下のページを読まれることをお薦めする(英語): http://www.longwoodgardens.org/Organ/Swinnen.htm 1906年にアントワープの王立音楽院を優秀な成績で卒業したスウィネンだが、彼の名が知られているのは、米国の巨大企業デュポンの総帥 Pierre du Pont (1870-1954) が築いた邸宅「ロングウッドガーデン」付きのオルガニストとしての三十余年にわたる活躍によってであろう。 1929年、スウィネンがデザインした仕様によってデゥポンが発注し、エオリアン=スキナー社が製作したオルガンは、個人の邸宅に設置された史上最大のオルガンである。(日本のいかなるコンサートホールのオルガンと比較しても格段に大きい。) 1950年代、80歳を越えたスウィネンがこのオルガンで行った演奏の中には、今日では考えられないような凄まじい「名演奏」が含まれている。以下にお聴かせする録音は「ジプシー・ダンス」と題された即興演奏である。 アメリカの大衆向けに通俗的な味付けをされてはいるが、これはオルガン演奏としては空前絶後だろう。ましてや 80歳を越えた人間の演奏としては、ほとんど信じ難いものがある。 http://208.55.177.6/toku/music/org-ml/mp3/usa/ ◆◆ リン・ラーセン@ホワイトキューブ 3/14 (日) ホワイトキューブ・オルガンコンサートは、今まで日本で行われてきたいかなるコンサートよりも幅が広く、ヴァラエティに富み、しかも水準の高いアーチスト選りすぐって招聘している。 1月18日に演奏したド・ボルギャールは純粋にクラシックの音楽家で、しかも徹底的に作品の「解釈」を追求した演奏家だった。 次回のホワイトキューブ・オルガンコンサート(シリーズ #15)は 3月14日に迫っているが、今度は全く対照的なアーチストとして、完璧な技巧と堅固な音楽性を兼ね備えたシアターオルガンの演奏家、リン・ラーセンをご紹介する。詳しくは、ウェブサイトをご覧頂きたい: http://organconcert.info/cube/conc-j.html なお、このリン・ラーセンの後は、クリスマスに因んだコンサートを 12月にシティー・オルガニストのカーリーが行うまで、ホワイトキューブのオルガンコンサートはしばらくお休みをいただく予定だ。 ここではリン・ラーセンについて少し解説しておこう。シアター・オルガン(とその音楽)に関してはこのメルマガのバックナンバー #010 「ネットで聴けるオルガン音楽」で触れたのでそれをご覧いただきたい。 http://organconcert.info/mm/backnos/010.html − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − リン・ラーセンについては、決して忘れることの出来ない体験がある。 十余年前にサンフランシスコへカルロ・カーリーを訪ねた時、彼は親しくしているリン・ラーセンを誘って私を新しくできたオルガンの試奏に連れていってくれた。最初にカーリーが、次にリンが、それぞれ30分以上演奏した。 カーリーについてはこのメルマガ(#004)でも触れたが、白石市の公式シティー・オルガニストであり、すでに十数回来日しているコンサートオルガニストでヴィルトゥオーソだ。特にロマン派作品の演奏で定評がある。 その日も彼は、適当に自分のレパートリーから小品を弾いたり、即興で色々なストップの響きを聴かせてくれた。予想通りカーリーの演奏が終わると、次はリンの出番だ。シアターオルガニストだから何を弾くのだろうと思っていたら、まずバッハの前奏曲とフーガ。たぶん、ペダルが活躍するあのニ長調だったと思う。特に速くないテンポで、バッハらしい堂々とした演奏だった。 続いて、トリオ・ソナタ。いずれも技術的に完璧で、しかも余裕のある演奏だった。いやいや、私が今まで聴いてきたヨーロッパの大半の(有名な)オルガニストの演奏よりも魅力的だった。楽しんで弾いているので、こちらも楽しくなってしまった。オルガンでこのように(良い意味で)リラックスした演奏はほとんどないので、印象に残った。 次に、ボエールマンのゴシック組曲。今までフランスの奏者をはじめ数多くの演奏を聴いたが、この曲がこんなに新鮮に面白く聞こえたのは始めてだ。演奏に余裕があり、しかも音楽的なのだ。 それが終わると、最後はフーガの形式による即興演奏だった。最近は自由形式の即興が好まれるが、即興でフーガを演奏することはバッハの時代からオルガン即興における一つの規範になっている。私は過去にヨーロッパで何百回もオルガンコンサートを聴いてきたが、即興をプログラムに加える者は多くはない。ましてや、即興をフーガで締め括るという難事業を 「様になるように」行う強者は事実上皆無だった。 レコードで聴ける即興もあるが、フーガを演ってまともな音楽になったものを聴いた試しがない。リンのフーガ即興は何と、純粋にバッハのスタイルによるもので、専門的なことを言うならこれは和声的になかなか厳しいことを意味する。 ところがどうだろう。リンの即興は、まるで紙に書かれた作品かと思わせるほど、一分の隙もない完璧な音楽だったのだ。こんな即興は過去に一度も聴いたことがなかった! (もちろんそれ以後もないが!) 途中でカーリーが、「ダブル・フーガ!」などとヤジを飛ばす。 そこまではやらなかったけれども、私はリンの完璧なフーガの即興に大いに満足した。この即興も含め、クラシックのオルガン音楽をこれほどの説得力をもって聞かせてくれたオルガニストは他にほとんど思いつかない、という 帰路リンに尋ねたところでは、彼は毎日曜日 自分の教会でオルガニストとして奏楽しているそうだ。クラシックの演奏家として活動しているわけではなさそうだが、彼の演奏はキース・ジャレットが弾くクラシックのように純粋だった。キースはインタビューの中で、なぜクラシックの演奏家にならなかったという理由をはっきり述べているが、リンもまた、同じような道を辿ったに違いないのだ。 ところで、その後アメリカのオルガン製作家などから聞いたところでは、そもそもシアター・オルガニストはクラシックの奏者を遙かに上まわるテクニックを持っているという。また、シアター・オルガニストの世界は非常に競争が厳しいとも言う。 そのため彼らは、必ずしも良いことだとは言えないかもしれないが、テクニックの限界まで挑戦しようとする傾向があるのだと言う。アメリカでは、シアターオルガンの聴衆はクラシックオルガンの聴衆よりも多く、録音の売り上げも一桁は違うそうだ。 今ではリンは、アメリカの、つまりは世界のシアター・オルガニストの頂点に立つ人だと言っても過言ではない。彼は今年プロ・デビュー40周年を迎える。その記念すべき年に日本で初めて演奏することを、とても楽しみにしていると言う。最高のエンタテインメントを心ゆくまで堪能していただきたい。 最後に、メルマガ購読者の皆さまの予習と楽しみのために、リンの録音を3曲ほどお聴き頂こう: http://208.55.177.6/toku/music/org-conc/ ● "My Sin" '94年頃の録音 アルバム Paradise より 著作・発行: 大林徳吾郎 (オルガン設計製作家・プロデューサ) [OrganConcert] のホームページ: http://organconcert.info/mm/
http://pipeorgan.jp/ パイプオルガンと音楽 バックナンバー 目次 |
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