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'03.08.30 メルマガ発行
'03.08.31 web版 発行


 





No.008  '03.08.30

[キース・ジョン・リサイタル] 無事終了/後日談


8月24日、ホワイトキューブでのキース・ジョン・リサイタルは、おかげさまで滞りなく終了しました。

作品に対するジョンのアプローチは良い意味でアカデミックであり、自分の嗜好や適性を客観的に把握していて、それをオルガン音楽のレパートリーの中に的確に投影して演奏できる音楽家のように思いました。

彼は、(オルガンという楽器の機能に照らし合わせると)オルガン音楽の一般的なレパートリーは満足すべきものでないという不満を持っていて、そのためにトランスクリプション(編曲演奏)を非常に多く手がけているわけです。彼の録音の中に変奏曲形式の作品が多いのも、オルガンと言う楽器が本質的に持つ「音色機能」を解りやすい形で活用できるからでしょう。


さて、ホワイトキューブのホールでは、吸音カーテンを使って残響時間を大幅に変えることができ、今回はジョン自身の意向も考慮して、最も教会的な響きが得られるように調整しました。その結果、日本の他のホールではまず経験できないような大聖堂的な響きが得られて満足された方々が多い一方で、過去のジョンのCDで聴かれるようなシャープな演奏からは遠ざかり、やや戸惑われた方がおられたかもしれません。

「レコード芸術」の記事中でも述べましたが、CDなど録音で聴く演奏とコンサートで体験する生演奏のギャップは近年では特に大きくなっています。それに加えオルガンの場合には、残響に対して音の明瞭度を演奏者がどの程度意識し、またそれにどう対処するかという要素が加わります。

日本の多くのホールで行われるオルガンコンサートで、響きがないために面白くなかったというケースが多々ある一方で、響きの豊かなホールでは細部が聞こえず音楽そのものの面白さがイマイチだった、というケースも出てくるわけです。これは非常に複合的で、興味深いけれども難しい問題です。と言うのも、やはり 「レコード芸術」の中で触れたように、オルガン音楽の聴衆は多様で、純粋に音楽を聴いている聴衆がいる一方で、音の響き(特に白石ホワイトキューブでは格段に教会的響き)を楽しんでいる方々が多いからです。

家族全員で来られた方、また、初めてオルガンを聴かれる方がかなりおられましたが、この残響のためか、他の音楽ホールではまず体験できない「音のシャワー」を浴びて満足された方が多かったようです。

冒頭で触れたジョンの才能の表れとしては、プログラム自身がたいへん良くできていたことを挙げられると思います。当日会場で回収したアンケートを見ると、最も良かった曲として挙げられた作品が、演奏された5曲に万遍なく分散していました。

ハードルが高いと思われたマサイアスの「パルティー」を挙げた方も何人かおられた上に、「プログラムが良い」とズバリ言われた方さえおられた(1名) のは、初めてのこととはいえ嬉しいことでした。何れの曲にもそれぞれ聴き所があり、ジョンはそれを上手に引きだして演奏しているということは、私もリハーサルの時から感じていました。それぞれの作品の演奏に込められた演奏者の意図は、多くの聴衆に伝わったに違いありません。


想像していたように、コンサートオルガニストとしてもジョンは知的な人で、6日間夫妻と一緒に過ごし、音楽のみならず様々な問題について議論しました。その中には、先に述べたレパートリーに対する見解があり、オルガン演奏家としてのジョンの基本的な姿勢や個性というものがよく理解できました。ここにはオルガン音楽を理解する上で重要な示唆が含まれていますが、これについてはまた別の機会に詳しくお話ししましょう。


著作・発行: 大林徳吾郎 (オルガン設計製作家・プロデューサ)
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