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'03.06.03 初版
'03.06.10 改訂

 





No.001  '03.06.03  創刊号

なぜオルガンコンサート?(1) 【デンマーク国教会のオルガンコンサート】


このたびは、ニュースマガジン [OrganConcert] 購読のお申し込みを頂きありがとうございます。創刊第1号をお届け致します。

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◆ なぜオルガンコンサート? (1)
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オルガン製作者(ビルダー)である私がなぜ、オルガンコンサートの携わるようになったのか、まずはその経緯をお話しすることにしよう。ビルダーの親方には色々なタイプがある。技術芸術面に口出ししないたんなる経営者タイプは除外するとして、物作りが好きだ、絵を描くのが上手い、演奏するのが好き・上手い、上手く弾けないけれども音楽を聴いたり美術館や画廊へ行くのが好きだ、とかいったタイプがあるだろう。私は明らかに最後のタイプだ。それだけでなく、1人の熱心なリスナーであるということが、オルガンに関わるすべての活動に原点になっている。

もともと私は、小学校に入学する直前から高校に入学する頃まで、十年ほどピアノを習っていた。いや、習わせてもらっていた、と言った方がいいだろう。演奏の素質がないことは自ら判っていたので、次第に苦痛を覚えるようになった。そして、受験勉強を口実にピアノのレッスンが放免となると、何と今度は自ら音楽を聴くことに興味を持つようになったのである。

間もなく、意外な理由(生で聴いたオルガンの音が悪いということ!)からオルガンに関心を持つようになり、数年後にはオルガン製作を学ぶために渡欧するのだが、その間の経緯は「レコード芸術」8月号に掲載される予定だから、とりあえずここでは省略させて頂く(「音楽現代」6月号のインタビュー記事も参照)。


【デンマーク国教会のオルガンコンサート】

1970年から 1985年頃まで、途中1年半ほど帰国していた時期を除き、十余年をデンマークで過ごした。この間、暇さえあれば教会のオルガン演奏会に足を運んだ。新聞のクラシック演奏会案内欄の半分以上は、教会でのオルガンコンサートで占められている。しかもその殆どは入場無料だ。北欧では教会は国に属し、牧師も、各教会に雇われているオルガニストの多くも国家公務員なのだ。オルガニストは、毎週日曜の礼拝でオルガンを弾き合唱を指揮する他に、結婚式や葬式の奏楽を務める。それ以外に彼らは、年に10回程度、コンサートを開くよう義務付けられている教会が多い。殆どの場合、これはオルガン演奏を意味する。

こうして、例えば1シーズンに6回コンサートを開く場合、1回はその教会のオルガニストが弾き、残りは国内外の知り合いのオルガニストに来てもらうというパターンが一般的だ。コンサートをシリーズ化し、ポスターを印刷するなど広報もしっかり行って毎シーズン定期的にコンサートを実施している教会では、その演奏の水準も概して安定していると言える。そうでない教会で、外国のオルガニストが来るというので言ってみると、ずいぶんひどい演奏会だと判って中座してしまった、などということもあった。

十余年の間に何回聴きに行っただろうか? 何百回か見当もつかない。けれども、一生思い出すような感動的なオルガン演奏は、デンマークでは殆ど聴くことができなかった。それでも、教会へオルガンを聴きに行くということに大して不満がないのは、音楽を聴きに行くのではなくて音楽が鳴っている教会へ行くことに満足を感じるからだ。それぞれの教会が持つ独特の匂い、十字架のキリスト像、祭壇周りや説教壇に施された彫刻、天井の所々に残っている中世のフレスコ画に描かれた素朴でユーモラスでさえある図像、天井から吊された船の模型(航海中の漁師・船乗りの安全を祈願するお守り)、などをぼんやり眺めていると心が和む。教会は、クリスチャンだけに門戸を開いているわけではない。

link
拡大写真 http://pipeorgan.jp/museum/img/helsg-l.jpg
写真 (C) T. Ohbayashi, http://pipeorgan.jp/museum/ より
ドイツとオランダの歴史的オルガン http://pipeorgan.jp/museum/gn-j.html
モダン・デイニッシュ・デザイン http://pipeorgan.jp/museum/dk-j.html

ここでちょっと一服して、私が何度もコンサートを聞いたデンマークの教会を皆さんにも訪れていただこう:

青年ブクステフーデがオルガニストを務めたヘルシンゲアの聖マリア教会。

ヘルシンゲアは、シェイクスピアの戯曲ハムレットの舞台になったと言われるクロンボー城があることでも知られる、風情ある港町。ハンザ同盟の時代から交通の要所で、ズント海峡を隔てた対岸にあるスウェーデンのヘルシンボリとの間には世界で最も頻繁に自動車フェリーが行き来する(した?)。

「感動的なオルガン演奏を聴かずとも、オルガンが鳴っている教会へ行くことに満足を感じる」理由を少しはお解りいただけただろうか? 私が教会で感じ、無意識の内に自分の中に取り入れてきたものは、たぶん同じように意識せず築き上げてきた先人たちの "遺産" の尊さなのだと思う。

その遺産を私たちは文化 (culture) と呼ぶのである。cultivated (洗練された、教養のある) と語源が同じであることから解るように、その遺産の中に洗練なり教養を感じなければ、それは文化とは見なされない。

デンマークという人口500万の小国は、空から見ると格別に美しい。色彩的に、また造形的に。この美しさは殆ど、過去100年の間に人工的に作られたものだ。振り返って日本の国土を空から見ると、大方 逆のことが言える。その醜さは、過去50年間に我々日本人が自らの国土を虐げた結果ではないのか?

なぜこれほどくどい説明をするかと言うと、戦後の日本がどこまで文化と呼べるほどの遺産を蓄積してきたか、甚だ疑問だからだ。このような見方が、オルガンやその音楽に対する私の世界観を根本的に支配している。

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さて、最初の4年間でオルガンの整音技術を一通り身につけてしまった私は、いったん帰国した。若干の仕事はしたものの、オルガン製作とオルガン音楽の伝統が皆無に等しい日本の状況に絶望して、1年余りで再度渡欧、またもやデンマークへ赴ことになった。

人間は欲しい物が与えられないと、ますます渇望するようになるものだ。私の関心は、オルガンそのものよりも、オルガンという楽器を育んできたヨーロッパの文化や、あるいはこの楽器が育んできた音楽に向けられていた。


著作・発行: 大林徳吾郎     Copyright (C) 2003  無断転載禁止



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